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2005.04【特集記事−本誌編集部より−】 ─ 利益を増やす価格の決め方 ─ 価格の決め方、間違ってませんか?
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1.価格を決めるのはお客様にあらず「価格はお客様が決めるもの」という“通説”があります。これは、「価格は自社の原価の積み上げで設定するのではなく、お客様に買っていただける値段に設定する。そしてその価格を実現するために、いくら以内の原価に抑えて、それを実現する方法を検討すべきである」という考え方です。 すなわち価格は、売れる値段にしなければダメだということです。 このことはすごくあたりまえのことです。 しかし、これは超優良企業の話であって、中小企業では適用できないと私は考えています。 なぜなら、超優良企業であれば、大きなシェアが確保されており、プライスリーダーになっているからです。価格の支配権を握っているから、このようなことができるのです。 ですからこの言葉は、中小企業には“毒”だと私は思っています。 多くの中小企業では、 「○○円にしないと、買えないね」とお客様からいわれると、 「ハイわかりました。何とかします」──表面上は明るくふるまいながらも内心では、「仕方がないなぁ。購買課長の要求だから…」──半ば泣き寝入りしていることが現実ではありませんか? 本当にこれでよいのでしょうか? 儲けるためには、“儲かる価格に設定”しなければなりません。儲からない価格で仕事を受けることは“悪”です。 では、“儲かる価格に設定”するには、どのようにすればよいのか──これについてお教えしましょう。 その最大のポイントは、「原価」と「戦略」です。 2.価格は需給関係で決まるたとえば、東京に“一人のモテない男A君”がいます。彼のまわりには多くの女性がいるのですが、だれも彼のことを振り返ろうとしません。彼は自分の存在をアピールするために、大枚をはたいた“プレゼント攻勢”に出ます。しかし、結果は変わりません。 一計を案じた彼は、“女性しかいない島”へ行くことに決めました。 結果は──東京にいたときの彼は、ライバルが多かったためにまったく女性から相手にされませんでした。しかし“女性しかいない島”に移ったとき、男性は彼一人です。大自然の原則に照らすとこの結果は容易に想像できますよね。 「価格は需給関係で決まる」という経済原則があります。 この原則は“市況がタイトになれば価格は上昇し、ゆるくなれば下降する”という原則です。 彼がとった行動は、まさしくこの原則を遂行しただけなのです。 このように儲けるためには彼と同じように、ライバルがいない市場をねらうか、需要が多い市場を物色することが必須条件なのです。これが儲けるビジネスの基本になります。 ところが、現実はこの通り行きません。 「○○製品は、今△△社から買っているから、おたくから買う必要がないよ」 「□□商品は、あまり売れていないから、当面はいらないよ」──ビジネスの世界では、このように“耳に手を当てたい言葉”が、常套句のように飛び交っていますよ。 この言葉を繰りかえし浴びせられると、“悪魔のささやき”が聞こえ始めます。 「安くてもいいから、早く売らないと資金がショートするよ」 「安くしないと、他社に仕事が奪われるよ」 この声が聞こえ始めると、そのあとに待っているものは、“価格競争という地獄”だけなのです。 ですから、価格競争に巻き込まれないようにする基本は、供給をしぼるか、需要を拡大することなのです──と、口でいうのは簡単です。 長い間経営に携わってきた経営者は、“供給をしぼれば、価格を上げられる”ということは百も承知です。このような教科書的な答えは通じません。 現実の経営の現場には、すでに投資してしまった設備が多数あるため、供給をしぼりたくともしぼることができないのです。 このような場合は、どうすればいいのでしょうか?──実は、これに対する秘策があったのです。 3.価格を下げて儲けるワザこの小見出しは、“価格を下げて儲けるワザ”です。決して“…上げて…”ではありません。極めて簡単な例で、説明していきましょう。 ここに1泊8,000円の価格で営業しているビジネスホテルがあります。このホテルは以前からずっと、100室中90室が埋まらない状況が続いており、このオーナーは毎日頭をかかえています。 もしあなたがオーナーだったら、どのような価格に設定し、この悪夢から脱しますか? 通常であれば、まず原価に着目します。 ビジネスホテルで一番多い出費は、お客様が来ようが来まいが毎日発生する“建物の減価償却費”ですよね(図1)。
いわゆる“固定費”が、毎日休みなく出費されているわけです。 通常であれば、「この“固定費”を少しでも回収したい。そのためには価格を引き下げて集客し、部屋を遊ばせないようにしたい」と条件反射的に考えますよね。 多くの人がこのように考える理由は、“利益=宿泊数量×(価格−原価)”であることを経験的に知っているからです。平たくいうと“数量で稼ごう”という考え方です。 すなわち、まず儲けようと思ったら、まず稼働率や操業度を上げることが必要なのです。これらの数値が低い場合は、“安い価格”を設定して、集客数や受注数量を増やす戦略を採用せねばなりません。 ではその“安い価格”とは、いくらに設定すればいいのでしょうか。 ギリギリの価格を見つける 仮に今、建物の減価償却費を1日90,000円支払っているとしましょう(図2)。 この費用を回収したければ、たとえば一人あたり1,000円/日で、90人の宿泊客を集めれば可能になりますよね。 しかし現実には、建物の減価償却費以外の固定費として、宣伝広告費、総務マン、経理マン、営業マンの労務費、役員報酬等が発生しています。ですから“これらの固定費”についても、お客様からいただかないと割りにあいませんね。 しかし、これでもまだ足りません。 なぜなら、今までは“固定費”しかみていなかったからです。実際には、“変動費”も発生しているのです。 “変動費”とは、お客様の宿泊数と比例して増減する費用のことです。たとえば、宿泊客が増加すると、部屋を掃除するパートさんがたくさん必要になりますよね。そうすると、“その給料”が増えてきます。
その他の“変動費”として、宿泊のたびに必要な歯ブラシ、シーツの洗濯代、お客様が部屋で使用する電気代や水道代がありますよね。 もしこれらの“変動費”をお客様からいただかなかったとしたら、お客様が一人増えると一人持ち出しになってしまいますね。この“変動費”については、必ずお客様からいただかないとまさしく逆ザヤになってしまうのです。 では、このようなビジネスホテルの場合、いくらに設定することが理想的なのでしょうか? 通常の経営者であれば、お客様が増えるたびに発生する“持ち出し”は、最低限やめたいと考えます。 すなわち、「逆ザヤにならないように、“変動費”については100%お客様からいただこう。しかし“固定費”については、本当は1,000円/日以上欲しいが、今回は100円/日にして少しでも“固定費”が回収できればいい」と考えます。 このように、戦略的な新価格を設定するポイントは、最初に“変動費”を計算し、それを100%回収し、次は“少しでも固定費”が回収できないかを考えることなのです。
実はこのようなことは、ホテル業界では日常的に実施していることなのです。 期間限定の激安パックや、飛行機と組み合わせた激安パックなどがそうです。 以上のことを整理すると、今回の空き室90室を埋めるための新価格は、次のように設定すればいいのです。 新価格=“変動費+α”(+αとは、少しでも回収したい“固定費”に相当) なお、本書では、“変動費+α”のことを以下“ギリギリの価格”と称します。 4.儲けたければ変動費を見る
この図は95%の企業が採用している「原価・価格構成」です。あなたの会社も恐らくこのようになっているはずです。できれば今すぐ、“原価の明細表”を経理担当者に持ってきてもらい、あなたの目で確認してみてください。 ──労務費は、変動費と固定費に区分されていますか? ──経費が、変動費と固定費に区分されていますか? では、図5の方式ではどうでしょうか?
しかし残念なことは、この方式には経営上便利な点が多数あるのですが、実は日本の95%の経営者が、この方式のことを知らないのです。 この方式を採用している企業は、“価格は経営なり”と心の底から思っている5%の優良企業だけです。 あなたな真剣に“儲けたい”と思うのであれば、“鰯の群れである95%の会社”と同じことをやってはダメです。この本を読み終えたらすぐ、「直接原価方式」に改善することです。 ちなみに、“儲かっていない95%の企業”が採用しているやり方を「全部原価方式」といいます(図6)。 5.「直接原価方式」の驚異!
私はコンサルタントを開業するまで、超優良企業に勤務し、「生産管理」や「外注管理」の仕事を通じて、直接原価方式ノよる原価や価格算出の業務に関係していたからです。 参考までに、次のことをお教えしましょう。 その会社が超優良企業であった理由──。 それは、ただひとつ──。“独自の商品を開発し、そして儲かる価格を設定し、儲かるものしか売らない。儲からないものからは必ず撤退する”という経営の原則を貫いていたからです。 先にも書いたように、その会社は「直接原価方式」による価格決定方式を採用していました。しかも私が入社した当時から、普通に実施されていました。 この本では、すべてを見せるわけにはいきませんので、そのエキスを紹介しようと思っています。 ちなみに、なぜ「直接原価方式」と呼ぶのかというと、先のビジネスホテルのように、宿泊数が1泊増えるたびに増加する原価がダイレクト(直接的)にわかるからそう呼ばれるのです。 一方、「全部原価方式」と呼ばれる理由は、変動費であろうが固定費であろうが、全部ふくめて計算するからなのです。 6.社長のためにあみ出された「直接原価方式」「このような方式がほしい!」といったのは、世の中の優秀な経営者たちです。すなわち、図4の「全部原価方式」では、「変動費と固定費が混在しているから、正確な原価管理ができない、儲かる価格が設定しづらい。もっといい会計方式がないのか!」という不満が出され、これを解消するために開発されたのが図5の「直接原価方式」なのです(このような経営管理上で使用する会計のことを“管理会計”と呼びます)。 しかしながら、95%の経営者の方は、図5の存在を知りません。言葉すら聞いたことがないかも知れません。 なぜだと思われますか? 実は“日本の会計システム”に原因があったからなのです。 えっ! 会計システムに原因 !? ──。 大きな話になってきましたが、安心してください。簡単にいうと、日頃皆さんが見ている「損益計算書」に経営管理上の不都合があっただけなのです。
この資料は税務署等の官庁へ提出するために、記入項目が日本中で統一されています。ですから、どこの会社へ行っても、記入項目や計算式は同じなのです。ちなみにあなたの会社のそれもごらんください。図7とほとんど同じはずです。 しかし、ここからが問題なのです。 じっくりとこの「損益計算書」を見てください。変動費と固定費の区分がありますか?──ありませんよね。 実は、日本企業が役所に提出している「損益計算書」の大半が、「全部原価方式」で計算されたものなのです。 このように“お役所用”に作成している決算資料が、「全部原価方式」を採用しているために、“管理会計”の必要性を知らない95%の経営者が「この方式が正しい会計方式なのだ」「この方式しか世の中にない」と思い込んでいるのです。 ちなみに、前出の“管理会計”と相まって、このような経営成果の外部報告を主目的とした会計のことを“財務会計”といいます。 今回のセミナーでは、価格にまつわる心の病気を治す直し方を5つの対策で指導します。是非ご受講下さい。 (西田順生著「粗利を2倍にする価格決定論」(PHP研究所)より)
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